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2025/07/20 12:39

カールハンセン&サンのカタログで初めてSideways Sofaを見たとき、その美しさに目を引かれたとともに、背面にあしらったペーパーコードの新鮮な使い方に驚き、感動しました。前後、上下、左右どこから見ても美しい。特に背後からも見て、これほどの優美さと繊細さを表現するソファはこれまでなかったのではないでしょうか?

 私はこの写真を見たときすぐに、このソファのミニチュアを作りたいと思いました。しかし各パーツのあまりの繊細さに手が出ませんでした。

 昨年9月カールハンセン&サンの本社の本社工場を訪れた折り、Sideways Sofaのパーツを見ました。案内してくれた営業マネージャーのMr. Torbenからこのミニチュアは作れるか?と聞かれましたが、まだその時はどう作ればよいのかわかりませんでした。

帰国後、どのようにミニチュアとして成立させるか構造を考え始めました。まずは写真を観察してフレームの取り回し、そしてクッションをどのように取り付けるかを考えます。背の後ろを囲っている木部フレームは曲木ですが、ミニチュアでは不可能なので、削り出しとします。

脚部など縦方向の部材は丸棒を使いたいところ、と想像しますが、角棒を使い面を取っています。このため他の部品との接合面積が大きくなり強度アップに貢献するとともにコストダウンにもつながったと思われます。

ミニチュアでは、幅の狭いフレームにペーパーコード用の孔開けの時、部材が割れてしまうことを恐れていましたが、小口径の孔から何回にも分け、少しずつドリル径を大きくすることで解決しました。

クッション部分はバルサ材を削り出し、整形して布を張ります。布の厚さを考慮しながらバルサ材の構成を決めていきます。

 

ミニチュアが完成した後に実物Sideways Sofaに座る機会を得ましたが、シートは水平。背は低めにもかかわらず、座り心地がとてもよく、心と体になじむソファです。背の高さや、ウレタンの硬度など各所の設定に細心の気配りがなされているのでしょう。それにこのシートは丸くころんとしており、張地が縫製されていないことで滑らかさが強調されています。半端な張地とウレタンでは成立しないデザインです。この仕様からもこれが美観だけでなく、伸縮性と耐久性を兼ね備えた高性能の張地を使用した椅子であることがうかがえます。

 

ミニチュアが完成しました。これがなかなかの完成度。デザイナーのRikkeさんにも見てもらいたいと思い連絡を取り、ミニチュアの写真を送ったところ、とても喜んでくれました。そして3月にセールスプロモーションツアーで来日されると知り、会う約束をしたのです。

Rikke Frostさんはデンマーク、ユラン半島南部の街オベンロー出身で、デンマーク第二の都市オーフスを拠点として活動を続けています。様々な伝統工芸や素材をいかに組み合わせるべきかを常に追求し、円形をモチーフとした独特の表現を多用するのに加え、人間を中心に据えた、機能的で色あせないデザインの創出に力を入れています。と、カールハンセン&サンのウェブサイトに紹介されています。

Sideways Sofaは「斜め向かいに座ることで自然と会話が始まるソファです。」というのがコンセプトで、その発想から仕上がりまで、まさに彼女のデザイン思想が具現化されていると感じます。

これはごく表面的な考察ですが、円形をモチーフ、つまり丸っこいソファを作りたければ、型の中で発泡させるモールド製法により丸っこい形にウレタンを整形し、それを布のカバーでくるめばできるわけです。(とは言ってもこれはこれで新しいものを生み出すのは大変ですが・・・) しかし伝統的なフレーム構造と円形をモチーフとした独特の表現とを両立させるのは簡単ではありません。美観を整え、木材の特性を知りどう使うか、生産性を考慮し、顧客が入手しやすい価格で量産できなければなりません。彼女のデザイナーとしての蓄積がこのソファを誕生させたのでしょう。この製品の基本的な構想ができてから、カールハンセン&サンの技術と特性を活かした最終構造と仕様が決まるまでどのような過程を経たのでしょう。もっと知りたいです。